ジュエリーの製作において大きく二つの製法に分けることが出来ます。
現在一般的に普及している多くのジュエリーは鋳造(ちゅうぞう)製法という方法で製作されています。
いわゆる型流し(キャスト)と呼ばれるものであらかじめ型を作っておき、その型に目的の金属を溶かして流し込み固めて形成する方法です。
そして、もう一つの方法が鍛造(たんぞう)製法で私自身もオーダーでジュエリーを製作する際はこの製法を主に用いております。
明治時代の宝飾品などもこの鍛造製法により作られて参りましたが現在ではこの製法でジュエリーを作っている方は少なくなっております。
ではなぜ私どもが未だに鍛造(たんぞう)製法にこだわり続けているのか、
鍛造製法というものについて踏まえながらご紹介させて頂ければと思います。
そもそも鍛造(たんぞう)製法とは?
鍛造(たんぞう)製法とは字のごとく鍛えて造る製法です。
日本刀も同じく鍛造製法により鍛えて造ることで丈夫で刃こぼれの少ない名刀が作られてきました。
ジュエリーにおける鍛造製法にもおなじ事が言えます。
ジュエリーの基となる地金を金槌で叩いて鍛えることで丈夫なジュエリーを作ることが出来ます。
鍛造(たんぞう)製法でつくるジュエリーが強固で丈夫な理由
具体的に鍛造(たんぞう)製法による地金を鍛える製法をジュエリー製作でどのように応用しているかと言いますと、
例えば指輪でしたら、指輪となる元の素材(地金)を金槌(かなづち)で叩いて、なまし
叩いてはなましてを繰り返すことで地金内部の密度が高くなるよう、圧縮していきます。
ですので丈夫で強固な傷のつきにくいジュエリーになります。
金属でもジュエリーに用いる貴金属(金やプラチナ)はとても柔らかいものです。
ですのでジュエリーによく用いられているk18のように金に別の金属を混ぜて強くしているのですがそれだけでは十分とは言えません、そのままでは表面を何かで擦ると意外な程簡単に傷が付いてしまいます。
お祭りの夜店などで見かけるわたあめ(綿菓子)をイメージしてみてください。
極論ではありますが、通常柔らかくふわふわしているわたあめですが、
手で強く握りつぶすと固くなります。
同じではありませんが地金も溶かして固まった状態では密度や硬度は不均一で、加熱時に内部に空気が入り込みそのまま固まるため穴の様な空洞(巣)がまばらに存在しています。
キャストのような型流して作るものですとこの状態のまま固まったものが目的のジュエリーとなります。
鍛造(たんぞう)製法では内部にできた巣を潰しながら、高密度な地金が均一になるよう地金を叩いて、なましながら棒状に伸ばしていきます。
ふわふわしたわたあめの空気を押しつぶしながら全体的に硬くしていくようなイメージです。
何度も叩き上げることで巣を取り除き、高密度で強固な地金で均一な状態となります。
指輪ではこの工程で角棒という四角い棒上のものにします。
この強固に叩き上げ、圧縮した高密度の角棒をもとに指輪を形成していきますので、
鋳造(キャスト)よりも強く、丈夫な指輪ができる訳であります。
私どもは指輪以外のジュエリーにおきましても一度このように地金を強くしてから、それをもとに石座や骨格を作って行きますので同じく丈夫なジュエリーの製作ができます。
指輪ですと角棒を指輪状に丸めて、そこから目的のデザインへとヤスリなどで削りだしを行います。
表面を丸くしたり、ラインを入れたり、ミル打ちを打つ場合も一つ一つ手作業でいれていきます。
鍛造製法かつ完全手作りという訳でございます。
簡単では有りますが鍛造(たんぞう)技法の基礎となる工程をご紹介させて頂きました。
他にも目的のジュエリーに合わせて様々な技がございますので少しずつご紹介できればと思います。
ほとんどのお店が鋳造(ちゅうぞう)製法によるキャスト製品である現状について
利点が多々ある鍛造(たんぞう)製法ですが、多くのブランドやお店が鋳造(キャスト)によるジュエリー製作を行っており、鍛造による製作を行う所はほとんどありません。
それは先のことから、型流しに比べ、鍛造(たんぞう)は多くのプロセスが必要となります。
また、地金を強くするための圧縮工程や目的の形への削り出しなども必要ですのでそれに応じて、一つの指輪を作るのに必要な地金の量はキャスト(あらかじめ出来た指輪の型に溶かした地金を流してつくる)に比べ多くなり、素材費用や時間もかかってしまいます。
なにより、鍛造(たんぞう)製法によるジュエリー製作は目的の金属を彫刻のように削りながら形成したり、パーツも一つ一つ目的の地金で作らなくてはいけません。
すると、複雑なデザインのジュエリーや指輪を作るにはより高度な技術が必要となり、
それ出来る職人は多くはありません。
これらを全国的に展開し、多くの客様に商品を提供しているお店やブランドが行うことは難しく、コストもよりかかります。
使用する素材の量は増え、手間もかかるので一つのお店が鋳造(キャスト)を同じように鍛造(たんぞう)を提供することはできません。
全国の多くの方に自社のブランドをお届けするには、一度の工程で数十個、場所によれば数百個作れるキャストと一度の工程で一つ、二つしか造れない鍛造ではどちらを選ぶかは明らかです。
ですので現状国内の多くのお店は型流しによる大量生産が可能な鋳造(キャスト)製法により指輪などのジュエリーを作っているとも言えます。
(もちろん他にも理由はあるのだと思いますが)
それでも私どもが鍛造(たんぞう)製法にこだわる理由
それでも当店が鍛造にこだわるのは上記の頑丈さや質のためです。
鍛造(たんぞう)と鋳造(キャスト)で強度を比べると
同じ厚み、幅の指輪でも製造方法の違いで2~3倍、華奢なデザインになると5倍もの強度に差があります。
例えば、鍛造で製作した幅3㎜、厚み1.5㎜の甲丸リング(プラチナ)ですと、おおよそ荷重300N前後の負荷にも耐久できます。
これは約30㎏相当の持続的な負荷に耐えうる強度を持ってことを示します。
キャスト製造による3㎜幅、1.5㎜厚の指輪に同じ負荷をかけると多くの場合、楕円形に変形してしまいます。
以前、2㎜幅のキャストリングで5㎏の負荷に耐えられないものもございました。
これは女性の腕力でもベンチを使えば曲げられてしまうレベルですし、
指輪を普段から着けられる方ですと買い物袋を手で持ち運びされただけで
2年経たずして変形するなんてこともあり得ます。
(実際そういったことでお困りの方もおられました。)
結婚指輪など普段から身に着けられるものももちろん、
ファッションリングにおいても変形は致命的な問題を起こします。
指輪が変形すると言うことは全体に影響を及ぼします、
その歪みが石部分に伝わると留めが緩み、石とれにつながります。
石の部分に大きな衝撃を与えた覚えがないのに石がとれていたという覚えがある方様などはこの指輪の変形による歪みが原因であることが多いです。
婚約指輪の中石が知らない間に外れたなんてことも起こり得てしまう訳でございます。
キャストは石を留める爪部分も型流しですので強度が弱く、何かに引っかけただけで
爪が起き上がったりもします。
あらかじめ用意された型に地金を流して作った指輪の枠に石を留めますので、
もし、石を裸石(ルースの状態)で選ばれている場合は石のサイズによっては枠にフィットしていないこともよくあります。(通常、婚約指輪などのキャスト枠は0.3ct前後のダイヤモンドのサイズを想定した鋳型にて製造されていることがおおいので)
石のサイズが一般的な0.3ct相当の石の大きさや形(直径や高さ)に合わないものを
無理に留めてしまうと少しの衝撃や変形でもとれてしまうということが起こりうるわけです。
そういったことなども含め、大切なジュエリーをいつまでも長く使って頂きたい、
あらゆるリスクに対して最適な状態にしたいという思いから鍛造(たんぞう)オーダーメイドに当店はこだわっています。
一からすべて手作りですから、着け心地やフィット感などもその方に合わせてお作りすることができます。
当然選んで頂いた石に合わせて、オーダーメイドで枠もピッタリ合わせてつくります。
石もそれぞれ個性があります。
同じカラットのものでもカットの方法で各部位に微妙な誤差が生じます。
既製品を見て、枠を決め、石を選び、サイズゲージで指輪のサイズを決めて終わりでは
多くのブランドとかわりありません。
先のことからも複雑なデザインはキャストの方が向いているというお話もよく聞きます。
確かに華奢で細かいデザインは鍛造(たんぞう)では難しいことも事実です。
ただ、私どもは錺(かざり)職人ですので一般論は当てはまりません。
ブライダルリングなどのデザインですと多くの場合鍛造(たんぞう)でも製作できます。
鍛造(たんぞう)製法一つにしても方法はその場所で大きく違います。
当店はプレスなどを使わず、手作業で圧縮、削り出しもすべて人の手によるヤスリがけで形成しますので、その分作品に職人の技術がダイレクトに現れますが、複雑な動きも施すことができます。
私たちが目指すのはその方にあった着け心地、フィット感、お悩み、ご要望にあわせて指輪やジュエリーを一緒につくりあげていく完全オーダーメイド製作です。
ブランドステータスをご提供することはできません。
そのかわり、素材、作り、石のこと、メンテナンス、アフターフォローなどジュエリーの質に徹底的にこだわり、ご納得頂けるまで疑問にお答えし、何世代にも受け継ぐこともできるジュエリーをご提供することにこだわっております。
だからこそ丈夫で着け心地にこだわることのできる完全オーダーメイドの鍛造(たんぞう)製作をご提供し続けております。
鍛造製品はお値段が高い?
先にも述べさせて頂きましたが鍛造(たんぞう)によるジュエリー製作には
一般的な鋳造(キャスト)に比べ、同じものを一つ作るのに必要な素材の量は多くなり、非常に手間と時間もかかります。
高度な技術も必要となりますので製作するコストは高価なものとなります。
そのため、鍛造(たんぞう)製法を取り入れられているブランドさんは非常に少なく、一般的なブランドのものよりも高価であることも多いです。
しかしながら、近年は多くの市場スタイルが生まれており、
お客様が手にされる際には鍛造(たんぞう)=高額になるとは一概にはいえません。
お客様の知識や行動次第でジュエリーの価値は大きくかわる時代でございます。
つまり、作るのにコストがかかる製法ではありますが、
お客様が購入されるまでにかかる別のコストを差し引けば、
キャストと変わらない場合もあるということです。
例えば、私どものように工房が直接お客様と一緒に一つのジュエリーをご提案、製作、お渡し、アフターまで一貫して行う所では余計なコストをかけずに済む場合が多いかと思います。
私どもではお客様とのカウンセリングから、素材選び、製作まで同じ人物が行うことでジュエリーの本質的な価値や造りのこと、お客様の疑問に対してもしっかりとご説明し、大切なジュエリーを最後まで責任をもってケア、アフターフォローをし続けます。
お店によっては販売員(アドバイザー)の方が鍛造(たんぞう)や鋳造(キャスト)の違いを知らないという事もあります。
当工房はブランディングを行って不特定多数の方に私どもの製品を手にしていただくことよりもひたすらに質にこだわり、長くお付き合いのできる質をもったジュエリーを、
売って終わりではなく、責任をもってアフターフォローできる製品を作っています。
この記事を読まれておられる方様は少なからず素材や作り、ジュエリーの質についてご興味をお持ちの方様かと存じます。
もし、ご興味をお持ち頂けましたら、お気軽にお問い合わせくださいませ。